オミクロンに怯える日本の水際まで最後の自由を楽しむ
LAMPテストで陰性となり、帰国フライトに搭乗できることになった我々であったが、帰国後どういう扱いをされるのかという情報が得られないままだ。
とりあえず腹が減ったし、できればビールなど飲んで落ち着きたいが、この頃のヒースロー空港はターミナルの外の店はほぼやっていなかった。仕方なく、チェックイン開始時刻を待つ。
日本航空JAL044便のカウンターへの列には、駐在員と思われる日本人、またそのファミリーなど。若い女子は留学生だろう。皆、緊急帰国ということなのだろう。観光客という風情の人はさすがに見当たらない。楽器を抱えた我々は彼らからはどう映るのだろうか。自分は髪色が明るい(地毛)くらいで、ごく普通の見た目である(と思っている)が、他2名はあまりカタギの人には見えないので、まあ観光客には見えないよなあ。
まあとにかく、列は普通に比べたら無いも同然で、帰りの機内もガラガラであることが期待できる。カウンターで聞くと、自分の席の周辺には誰もいない、ということだ。最高。
セキュリティを通ると、普段と変わらない感じでDFSやレストランがギラギラしている、人も通常と変わらないか、むしろ多い気がする。世界的には普通に旅行をしており、ここにいる日本人とその関係者というのはかなり特殊なのだ。
そういうわけで、バーも満席、ほぼ全てのレストランも満席である。腹も減ったし、ビールも飲みたい。
ぐるっと回ったが、いちばん待ちの少なそうなのが「Wagamama」である。
うーむ
うーむ
Wagamama かあ…
Wagamama を知らない人のために書いておくと、Wagamama は日本食(およびそのようなもの、あるいはそうだと勘違いされているもの)レストランチェーンである。主にヨーロッパに広く展開している。地域、店舗にもよるが、日本でいうファミレスと同等あるいはワンランク上のレストランという位置付けだ。
自分が初めて Wagamama に行ったのは、Dublin (アイルランド)に留学している時であった。ラーメンを注文したら案の定、のびのび麺、ぬるいスープ、過剰な肉と、無処理の野菜… といった欧米ならではのものであったが、まあそんなものだと思っていたから驚きもしない。この店はダブリンのど真ん中にあり、カジュアルバージョンの Wagamama である。
ダブリンでは他にも和食を出す店 Yamamori というのと Ukiyo というのがある。Ukiyo はよく行っていて、日替わりのBENTO BOXランチをよく注文した。マグロの寿司が必ず入っていて、天ぷらとか唐揚げとかの和食に加え、生春巻き、餃子、肉団子、プルコギ、など、和食じゃねーし、と思いながらもアジア味めぐり的な内容がむしろ好きだった。ちょっと高いので、落ち着いて昼飲みするにも良かった。
それ以来、世界のいろんなところで、期待はせず、単に怖いもの見たさで Wagamama に行ってみたが、いちばん驚いたのはイングランドの Lincoln という街の店。ここはソロで演奏に行ったのだが、川が優雅に流れ、風情のある石畳の坂の上に大聖堂があり…といった非常に美しい街である。演奏後に、腹も減ったしビールでも飲もうと思ったのだが、その日がツアーの最終日で、2週間ほど英国にいたため日本食が恋しくなっていた。そこに Wagamama を見つけたので、入ってみたのである。
すると、街の雰囲気に合わせてなのか、ちょっとお洒落な内装で、メニューもワンランク上ぽい。凝った感じのものが並んでいる。
なんだかよくわからないが、いくつか適当に注文した。
すると
…
…
まあそういうことだ。
Wagamama もしくは類似の和食レストランでは、黙って「サーモン照り焼き」を頼むに限る。
ここでワンポイントレッスンをしておこう。
「和食」とか、総称をいうときは
Japanese cuisine
とする。
Japanese food でもいいけど、こっちは品々を連想する。cuisine だと、体系とかそっちのイメージ。
Q: What’s your favorite Japanese food?
A: Well, definitely suhi.
とは言うが
What’s your favorite Japanese cuisine? とは言わない
Q: What’s your favorite cuisine? とは言える。
Yoshi: Well, Korean cuisine maybe. And my favorite Korean food is Ganjang Gejang.
とにかく、此の期に及んで Wagamama かあ… と思うわけだが、背に腹はかえられぬ。Go!
割とすぐ案内されたが、ぎゅうぎゅう詰めである。ヨーロッパ人たちは体がでかいので、余計狭く感じる。しかも隣のスペイン人のようなファミリーは赤ん坊連れで、この子が全力で泣き叫び続ける。食べ物を投げ散らす、などするが、親は放置であり、全く落ち着かない。
しかもウェイターの兄ちゃんが全く慣れていなくて、オーダーは間違える、来ない、メシが来ても箸がない、などのフルコースで、ほぼコントの状態であった。
しかし、こうしてある意味また Wagamama を有名にしてしまった。残念なことである。
ちなみに、こう言う場合「有名」は「悪名高い」の意味なので、英語の場合は
famous ではなく、infamous を使う。発音に注意。
さて
とにかく形だけ空腹を満たした我々は、一旦解散し、各自勝手にお土産を買うなど、搭乗時刻までを呑気に過ごした。
他の2人は、強制隔離されるのにそんなにお土産買ったんかい!というほど買っていた。
このツアーでは、マスクもせず、全く通常の生活スタイルで、GIGやフェス出演、しかもStorm Arwen からの大脱走、という修羅場も超えてきた。自分も含め、もはや怖いものがなくなっていたかもしれない。待ち受ける羽田での検疫、強制隔離、なども不安はなくもないが
「隔離されたときのメシは美味いかね」
「陽性だった人のブログで見たけど、結構良かったっす」
「じゃあ、まあいいかね」
という会話をしていた。
搭乗時刻となった。
行きの羽田と同じく、JALのグランドスタッフはヒースローでも笑顔いっぱいで、非常に心が和む。
キャビンでも同じだ。
席も一列独り占め。
ふと思ったが、ターミナルに入ってから、今この瞬間も含め
「最も安全な世界にいる」
のだと気がついた。つまり、この機内、またはレストランやDFSにいた人々、全てが検査で陰性だったのである。偽陰性の誤差はあるものの、まずそう言って良いだろう。
なんという幸せな時間であることか。
機内でのサービスも素晴らしかった。行きと同じく、エコノミーにいるのにいちいち構ってくれて、機内食ものんびり時間をかけて食べて、お酒もたくさん飲み、そして一列4席思いっきり使って眠る。
行きの 24/11/21 JAL041, 帰りの 29/11/21 JAL044 この素晴らしいフライトの思い出は一緒忘れないだろう。
食事以外は1時間ほど読書をしただけで、あとは爆睡し、すでに飛行機は沿海州を抜けて日本海に入っていた。
日本に帰ってきた。
ここからどんな展開になるのか。
オミクロン株に怯える日本国民としては、英国から帰ってきた我々はまさに「オミクロン」と同等に見えると思うが、むしろ何度も検査で陰性なわけで、そういう人々には
「おめえらよりはよっぽど安全なんだぞ。けっ!」
と悪態の一つもつきたくなる。
再び、頭の中にドナドナが流れる。
しかし、もうこの時点では不安とかそういうものより、いちばん気になっているのは
「隔離施設のメシが美味いといいなあ…」
という1点であった。
tbc